春嵐に翻弄されて… 〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。



     
後日談



青い夏空が頭上に広がるその真下にて、
いやはやこんな時間から暑い暑いと
手扇でお顔へ微かながらでもと風を送る真似をしつつ、
じいじいしゃんしゃんと喧しいセミをたわわに宿しているらしい、
校舎裏の生け垣代わりの木立を見上げるひなげしさんだったりし。
制服のセーラー服も夏用の白基調のそれへと衣替えしているし、
女学園はとうに夏休みに突入しており。
学園で一番華やかな五月祭も、
定期考査とそれへの補習も特に波乱もないままに消化されての長期休暇ではあるが、
部活によってはインターハイに出場する生徒もいる関係で、
夏休み真っ只中だというに、
応援する生徒らを会場まで引率する大型バスが用意されていたりして。
自分もその応援に向かう組の平八、
早起きして学園までを運んだが、いつも一緒の仲良しさんの姿はなく。

 「おやシチさん。」

スカートのポッケで“む〜〜〜ん”と唸ったスマホに気づき、
手慣れた様子でスリムなツールを引っ張り出すとやわらかそうな頬に当てる。
メールや lineじゃあなくの通話で、
相手はこれから向かう先に先乗りしている、
剣道部の主将の鬼百合、もとえ白百合さんで。

 「予選勝ち抜け、まずはおめでとうございます。」
 【うふふ、ありがとーvv】

今年の高校総体は南東北大会で、剣道は仙台市で行われ、
日程は8月9日(水)から8月12日(土)が男女とも共通のスケジュール。
こちらは今からそこへと向かうわけで、
結構な早起きになったがため、
集まったお嬢様がたもバスの中で二度寝しているお人がほとんどだったりし。
そんなバスを背後に見やりつつ、
現地にいる身の七郎次へ朗らかに話しかけている平八で、

 「えらく早起きですね。日頃の習慣が出ますか?」
 【そういうところかな。
  でもね、久蔵殿なんて日頃は低血圧でお寝坊さんだろうに、
  こっちではウチの朝練を毎朝見に来てるんだよ?】
 「おやまあ、それはそれは♪」

例年だったら彼女もまた、所属するバレエの方で、
はたまた親御の経営するホテルの夏の催しへのプレゼンターとして、
夏のバカンスもそれを彩る側として忙しい身となるがため、
そうそう都心から離れられはしない筈な紅ばらさんだが。
今年はちょっとばかり、彼女には珍しい我儘を言い出し、
周囲がそれならばとスケジュール調整をしてくれて、
8月初め、夏休み真っ只中というこの日程を、高校総体の応援優先に構えておいで。
というのも、

 【島田くんの応援に、今年初めて途轍もなく目立つ存在が現れたもんだから、
  そっちはどうか知らないけど、
  こっちの地方紙は連日可愛らしい写真が載りまくりなんだよ?】

 「おおう、それはまた…vv」

学校からの応援組や、剣道女子の間では
イケメン剣士・島田久蔵くんの名はずっと(笑)有名だったらしいが、
なにぶん、あの面をしっかとかぶって仕合う武道なだけに、
どんなお顔かを試合中に判れというのは無理があり。
いいの、広く知られればライバルが増えるだけ、なんて、
負け惜しみにも聞こえかねない言いよう、でもでもしっかと本心から、
今年もまた、皆してそんな風に構えていたものが。
どこの映画女優かハイパーモデルかというほどもの、
凄まじいオーラと威容をまとった美少女が
何の前振りもなく観客席に颯爽と現れたものだから。
予選はほぼ、試合よりそちらへの詮索に場内が沸いたほど。
何処の令嬢だあれ、何か映画の宣伝か?
なぎなたの映画は知ってるが剣道映画なんて撮ってたか?と、
そちらは芸能関係の記者さんが、
ロケ中のドラマの取材に来ていてたまたま居合わせ、
話題の美少女を撮ってったからさあ大変。
全国ネットの朝のニュースで、大きな写真付きのスポーツ紙が映し出され、
紹介されたのはロケ中のアイドルドラマだったにもかかわらず、
そのお隣に配されている記事の女の子は誰だという問い合わせが殺到し。

 【無責任にも、剣道女子と一緒くたにされてるけど。
  さすがに生で接した人には
  “そうじゃない”ってのもまる判りだろうから問題はないよ。】

 「でしょうよねぇ。」

どんなに場慣れしている厚顔な記者であれ、
ちろりんと斜に構えた一瞥食らっただけで、
お呼びじゃなかったですねと引っ込むしかない威圧の恐ろしさも、
現地では伝説になりかかっているらしく。

 “まあ、こうなるんじゃないかてのは予想出来たことですし。”

春先のあの入学式のたった一日の騒動にて、
結構翻弄されたお嬢様たちであり。
特に、活劇の真っただ中へと突っ込んだ挙句、
上には上がいるものだというの、
肌身に染みる思い知らされ方をした紅ばらさんで。

『…米
『ダメですよ、体重増やしたいなんて言いだしたら。
 シチさんが悲鳴上げます。』

その七郎次は七郎次で、直帰で家へ送り返されていて。
あのお顔があの場にやって来たらば、もっと混乱したからだそうですが。
…もしぁしてシチさんのそっくりさんも居たんだろうか?(…笑)

『凄いお嬢さんですねぇ、若の影武者、いやさ嫁御にスカウトしたい。』
『三木コンツェルンの跡取り娘だ、まず無理だよ。』

向こう様ではそんな取り沙汰がされてたなんてこっちは全く知らぬまま、
ちょっとした衝撃が冷めやらずでぼんやりしていたのも2週間ほど。
あの惣右衛門さんが様子見に来て、しょげている紅ばらさんに発破を掛けた。
曰く、

 『なんじゃ、その程度の覇気だったか。
  所詮は嬢ちゃんのお遊びじゃったらしいの。』

 『……っ

あああ余計なことをと周囲が青ざめた中、
ひったくりが駆けてったのへ食らいつき、
渾身の一撃、警棒一閃したことでお見事な復活を遂げたから世話はなく。

 「で。島田くんへ発破かけてるんですか、久蔵殿。」
 【そうらしいよ、目つきが違うもの。】

  こう、その程度の雑魚に負けたらただじゃおかんぞってのか。
  しかも向こうも敏感で、
  毎回違う場所に座ってるのをあっさり見つけちゃあ、
  試合場と観客席とで見つめ合ったりして。

 【それを周囲が誤解しまくってるのが、アタシにはチョー受けるvv】
 「おいおい、シチさんってば。」

相変わらずに浮いた話はないままに、ヲトメたちの忙しい夏は絶好調のまま過ぎゆく気配。
願わくば、あのような物騒なやっとぉにだけは金輪際関わらぬよう、
笹の葉陰に短冊で書いた、
どこかの保護者の皆様からの歎願が何とも痛々しかったそうでございます。(おいおい)




   〜Fine〜  17.04.10〜08.15.

BACK


 *やっぱり夏休みに突入しちゃったお話でしたね。
  文豪へすっ転んでたのもあったけど、
  まさかにここまで長引こうとは思いませんでしたよ。
  そして、お嬢さんたちちっとも懲りてません。
  それどころか、久蔵殿が剣道の道へ目覚めそうで周囲の人たち大変です。
  今まではまだ微かながら大暴れも辞めさせられそな程度だったのに。
  何となりゃ学生時代に剣道チャンプだった兵庫さんが
  本格派の力の違いを示せば何とかなりそうだったのに。
  …ご愁傷さまです。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る